純粋キーボード批判
スペースキーかスペースバーか
キーボードにおいて面積の広いキーは[Enter]と[Space]です。[Space]は横に長いので[Space bar]と呼ばれることがあります。barは棒とか横木を意味する単語です。ではなぜbarなのでしょうか。ここで、第一の「批判」です。
英文は、単語と単語をスペースで区切りますので、頻繁に[Space]を押します。
This is a pen.
この短文は3個のスペースで区切られていることから分かるように、英文入力は頻繁に[Space]を押しますので、横に長い[Space bar]が好都合です。
一方、日本語入力はどうでしょうか。[Space]を押す頻度は、じつはきわめて少ないのです。まず「字下げ」くらいのものです。つまり、横に長い[Space bar]である必要はありません。
ただし、[Space]はかな漢字変換の「変換キー」としても使われるので、その場合は横に長い[Space bar]に意味はあります。しかし、それならそれで「変換キー」自体を横に長くするべきでしょう。それが本来あるべき姿、道理というものです。
本批判では、このような曖昧で無責任な仕様には容赦のない批判を加えます。
[Space]については、のちほども言及します。
偉大なるカントと、もう一人
本稿の題「純粋キーボード批判」は、イマヌエル・カント(1724年-1804年)の『純粋理性批判』(1781年)から取ったものです。カントは、その序文の中で次のように述べています。
──そこで私は、これまで手をつけられずにいた批判というこの唯一の道をとり、従来理性がその……
またもう一人、アーサー・C・クラークは『2061年宇宙の旅』の冒頭「覚え書」(1987年)に次のように書いています。
──それが木星に達するのが予定より七年遅れに過ぎないとしたら、上出来というべきだろう。わたしは待たないことに決めた。
いつまで待ってもキーボードの革新が行われない。──それならば、待たないことにしよう。キーボードの、純粋な思考(分析と総合)による建設的な批判を試みることにしました。
単なる意見ではなく一つの仕事と解して
しかしここで論じられる事柄については、諸人がこ
れを単なる意見としてではなく一つの重要な仕事と
解し、また我々の意図するところは、一流派の創設
や任意な学説の確立ではなくて、実にこの列島に住
む人々の福祉の建設にあるということを信じて頂き
たい。
……この仕事に親しく参与して頂きたく思う。更に
また諸人は安んじて、我々の革新を何か無際限な、
また超越的な事柄と見なさざらんことを切に望みた
い。この革新こそ、実に限りなき謬見の終りにして
かつその正当な限界だからである。
この文は、カントの『純粋理性批判(上)』の扉に引用されているベーコンの一句を拝借し、本稿に合わせて、ベーコンの意図や趣旨に反しない範囲で少しばかりの字句を変えたものです。
ベーコンが「正当な限界」と述べていることを本稿では「必然性」と表現しています。
あくまでデスクトップ用のキーボード
本「純粋キーボード批判」で対象とするキーボードは、デスクトップPCのキーボードです。ノートPCやタブレット端末は対象の外です。
国内で使われているすべてのPCのキーボードを改革する、などといった野心は元よりありません。それでなくても、デスクトップPCの使用割合は減少傾向にあります。ただ、根強い需要があることも事実です。お使いのキーボードになにかしらの不満を覚えるユーザーを念頭におきながら論を進めます。
ただし既存のキーの位置、配列は極力尊重し、理由もなくキー配列に変更を加えるマニアックな態度とは徹底して無縁です。あくまで「批判」の立場であり、ベーコンの一句を拝借して述べておいた通りです。
また、申し述べるまでもなく、何事も巧みに操れる器用さと記憶力をお持ちの方(若い方や秀でた方)には無縁の話でありましょう。
おもむろに要約
本「純粋キーボード批判」は、読むに値するものかどうか、躊躇される読者に申し上げます。
本批判で述べていることは、冒頭の「列島キーボード図案」に集約されています。その図案をお手元のキーボードと、しかと見比べていただければ、読まずとも、概要は把握していただけるものと察します。
おっと、これは目次かもしれない
昔、僕はこの池のほとりの 1本の木だったかもしれない
遠い空へ手を伸ばし続けた やるせない木だったかもしれない
あの雨が降ってくる
僕は思い出す 僕の正体を
昔から降ってくる なつかしく降ってくる
「昔から雨が降ってくる」(2007年)中島みゆき
スペースキーかスペースバーか / 偉大なるカントと、もう一人 / 単なる意見ではなく一つの仕事と解して / あくまでデスクトップ用のキーボード / おもむろに要約 / おっと、これは目次かもしれない / お邪魔なキー / 一等地にある無用のキー / 意外と重宝する半角スペースキー / 3年使うなら1日30円也 / 指が覚えてしまったローマ字綴り / 日本語以外全部沈没 / 入力モードは思考停止の代物 / 日本語における唯一の半角文字 / 列島キーボードの謎 / 九州エリアの真実 / 必須のキーと便利なキー / キーボードの設置はやや右寄りに / 四国エリアを引き算と足し算で一新 / 四国エリアは自由のために / キートップの大きさトップ四 / おもな[Ctrl]ショートカットキー / 後世の人々への贈り物 / 意味を失った前世紀の遺物 / 幽霊の様なBack slash / 跡地を無駄にしないキー移転 / 唯一「空」のキーがある / シフトの拡張 - シフトロック / 安心のエスケープキー / キー配列の必然性に到達 / キーのクリック感と音 / キーボードの配色 / キーボードの形状 / 脱皮するキーボード / 続・純粋キーボード批判
※トップの「列島キーボード図案」をPDFで開いて、横眼で見ながら読み進むと合点がいくと存じます。
お邪魔なキー
使わないキーがあります。あろうがなかろうが使わないだけのことであれば何も問題にはしません。ところが、ひとつだけ邪魔なキーがあります。右前方の[Insert]がそれです。
使わないキー[Insert]は、すぐ近くによく使う[Back space]や[Delete]があるため、押し間違いやすい弊害があります。
押し間違えて[Insert]を押せば「上書きモード」になります。この「モード」はまず使いません。なければ困る「モード」でもありません。
以上の批判から[Insert]は無くすのが論理的と結論付けられます。
使わないで邪魔なキーをなくす、ただこれだけのことが反感や不安を引き起こすことは百も承知です。変化を好まない人の性ですから。しかし人には理性があります。論理があります。[Insert]は無くします。純粋批判の第一歩です。──この調子で先へ進みましょう。
一等地にある無用のキー
[Caps Lock]は英文において大文字(capital letter)を入力する便宜をはかるキーです。もちろん日本語入力で使うことはありません。英文の入力でも必須というわけではありません。[Shift]を使えばよいだけだからです。
キーボード盤面に「地価」があるとすれば、[Caps Lock]の地価は高くて、いわば一等地です。前述のような点を考慮するならば、[Caps Lock]は無くして別のキーに置き換えるのが合理的というものです。
なお付け加えるならば、[Caps Lock]の存在は、米国のグローバルスタンダードに追従する人々の傾向を象徴しています。残念です。批判の精神と少しばかりの勇気で[Caps Lock]は無くしましょう。困ることはありません。
[Caps Lock]は無くして別のキーに置き換えるとして、なにに置き換えるか。それは[Shift Lock]です。くわしくはのちほど。
意外と重宝する半角スペースキー
日本語入力の最中にあっても、半角スペースを入力したい場面があります。[Shift]+[Space]で入力できますが、入力のテンポを乱さないためには、組み合わせキーではなく、独立した「半角スペース」キーが望まれます。
半角スペースもひとつの「文字」なので[Half Space]を新設します。配置する場所は[Space]の左隣が適当でしょう。意外と重宝します。
3年使うなら1日30円也
キーボードは百個前後のキー─―プッシュスイッチつまり押しボタン─―と、少しばかりの電子回路で構成されています。PC本体に比べればローテク(旧来の技術)製品であることはいうまでもありません。
そのあかしに、量販店でキーボードやマウスのコーナーを見て歩くと980円のキーボードが陳列されています。仕事に使うならやはり高級品(3万円台前半)を、末長く使い込むのがよいと思われます。
マウスとともにキーボードはよく使う入力装置です。軽視すべきではありません。3年使うとして割り算すれば、3万円÷3年÷365日≒27円/日です。高級品だからといって決して高価であるわけではないのです。
本稿は、格段に使いやすい「高級キーボード」を導き出すことにあります。
指が覚えてしまったローマ字綴り
キーボードのキー配列は「qwerty配列」が事実上の標準になっていて、指がそれを─―アルファベットの位置を─―覚えてしまっています。多くのキーボードのキートップには、アルファベットと共にひらがなが刻印されています。
ローマ字綴りでの入力が一般化した昨今において、ひらがなの刻印は必要ありません。ひらがな(五十音)の刻印をなくすことで、盤面が簡素になり、これが思いのほか目に楽です。
もっとも「かな入力」を常用しているユーザーも一定数(約5%)いますので、本稿では「ローマ字入力」を前提にしていることをお断りしておかなければなりません。ただ、ローマ字綴りは日本のすぐれた言語文化であり、PCのキーボード操作においても合理的な入力手段といえます。
その理由のひとつは、qwerty配列は盤面上で一つのまとまりを形成しているのに対して、「かな」は盤面上いっぱいに散らかっている(分散している)ことを指摘することができます。たとえば、「む」や「ろ」です。
また、それだけではなく、「を」や、小さいひらがな「ぁ」、「ぃ」を入力するには[Shift]を併用しなければならず、効率的とはいえません。以上二点を論拠として、「ローマ字入力」のほうに分があるといえます。
「ローマ字入力」であれば、キートップにひらがなの刻印を施すのは意味がありません。ひらがなの刻印は、「日本語=かな」という表面的で短絡的な考えによる、ユーザーに迎合するものでしかありません。ひらがなの刻印はただちに廃止するのが妥当です。
ひらがなの刻印を廃止すると、日本語の刻印されたキーは[変換]ひとつだけの潔い(いさぎよい)盤面になります。いつだって、答えはシンプルなものです。
[変換]キーに、創作された任意のアイコンを刻印したキーボードを見かけますが、これは自らセンスのなさを表明しているもので、いただけません。盤面から漢字を追放する意図を察しますが、われわれは漢字圏に暮らしています。
【ローマ字綴り】
ローマ字で日本語を綴ったもの。室町時代に
渡来したポルトガル宣教師から始まり、明治
に至ってローマ字運動(羅馬字会)がおこっ
た。『広辞苑』
なお、ローマ字綴りは小学三年生で学習します。日本の言語文化に組み込まれているのです。
アルファベット26文字で五十音を表すローマ字綴り、そのローマ字綴りをかな漢字変換で日本語入力する─―思うに、これはすばらしいことです。
明治の羅馬字会の先達が、ローマ字綴りが、PCで活用されている様子をお知りになったとしたら、おおいに喜ばれることでしょう!
日本語以外全部沈没
日本語は素晴らしい言語だと思えてなりません。表意文字なのでぱっと見て(パターン認識)すぐ分かります。ひらがな、カタカナ、漢字と文字種も多彩で、縦書き横書き自由自在、英単語やローマ字綴りを織り交ぜることもできます。アルファベット26文字では、こうはゆきません。
キーボードで日本語を入力できるのは、かな漢字変換技術が確立されたからですが、それ以前に、明治の時代に「ローマ字綴り」が一般に普及したことが大きく寄与しました。
人工の国際語として知られるエスペラント語のように、日本語を国際語にしたらどうかと思うほどです。何世紀もかかる大事業になるでしょう。それならば、日本語の「輸出」という観点から研究を始めてみてはいかがでしょう。工業品ばかりが輸出品目ではありません。
入力モードは思考停止の代物
英語はすべて半角です。日本語は、ひらがな、カタカナ、漢字、すべて全角です。なのに、いったいなぜ、あえて半角、全角の区別を持ち込んだか。それは、半角文字は1バイト、全角文字は2バイトでPC内で処理されるからです。
他方で、入力モードという厄介な「モード」があります。入力モードは、
「ひらがな」「全角カタカナ」「全角英数」「半角カタカナ」「半角英数」
と五種類あります。──よくご覧ください。「ひらがな」モード以外は、
「全角……」「半角……」と表記されていることがわかります。
「半角、全角」の区分と「カタカナ、英数」の区分が掛け合わされて、五種類の入力モードに至ったことが明らかです。技術的にはごく自然な流れだったのでしょうが、──いえいえ、とんでもない! 「モード」を持ち出した地点において、これは技術者の怠慢です。怠慢といって悪ければ、思考停止です。お忘れでなければ、本稿は純粋批判です。
知らないうちに意図しない入力モードに変わっていて、修正を余儀なくされるのは、少なからず経験するところです。そんな入力モードは廃止します。
英語と日本語の切り替えとして[IME]を新設します。
・IME オフ:英 語入力(半角英数)A
・IME オン:日本語入力(ひらがな)あ
新設位置は最下段の[変換]の右隣、押しやすい位置にします。IMEのオンとオフは、キーボード盤面上のインジケーターで表示(点灯、消灯)します。
日本語における唯一の半角文字
「意外と重宝する半角スペースキー」で述べたように、半角スペースキーは日本語における唯一の半角文字です(記号類は除きます)。
※「半角カタカナ」は環境依存文字と同様に使用を控えるべき文字種です。
列島キーボードの謎
本稿冒頭の図案は、破線で四つの領域に区分されています。それぞれ、北海エリア、本州エリア、四国エリア、九州エリアです。
キーボードを日本列島に見立てたもので、列島キーボードと呼んでいます。巨大な手がいりますね。――えぇ、諸説(脱線も)ありますが、この巨大な手の持主の身長は、静止軌道ステーションほどだとのこと......。 ――さて、
本州エリアにあるはずのファンクションキー(F1~F12)はどこにいったのでしょうか。12個のうち2個は本州エリアと九州エリアに移転しました。あとの10個は別のキーやマウスで操作できますので、批判の精神から消去しました。
【移転】
[F2] EXCEL セル内編集 ⇒ 本州エリアに移転
[F3] 検索 ⇒ 九州エリアに移転
【消去】
[F1] ヘルプ ⇒ ほぼ意味なし、しかも[F2]の邪魔
[F4] EXCEL 直前の操作をやり直す ⇒ [Ctrl]+[Y]で可
[F5] 再読み込み(後述) ⇒ [Ctrl]+[R]で可
[F6~F10] 文字種変換 ⇒ [Ctrl]+[U][I][O][P]で可
[F11] 全画面表示 ⇒ マウス操作で可
[F12] ウェブページの検証画面 ⇒ マウス操作で可
ファンクションキーはアプリケーションごとに機能の割り当てが異なりますが、ここではよく使われる機能で整理しています。
九州エリアの真実
[Ctrl]+[X]は切り抜きに、[Ctrl]+[C]はコピーに、[Ctrl]+[V]は貼り付けに、それぞれしきりに使うショートカットキーです。しきりに使うだけに、ショートカットではなく独立したキーがあればより都合がよいので、九州エリアに[Cut][Copy][Paste]の各キーを新設しました。
「列島キーボードの謎」で述べたように[F3]も九州エリアに移転しました。[Esc]も加え、九州エリアは縦に5個のキーで構成されることになります。
縦一列に上から順に[Esc][F3][Cut][Copy][Paste]です。
必須のキーと便利なキー
[F5]はブラウザの再読み込みに、[Ctrl]+[F5]はブラウザの強制再読み込みに使われます。これは便利なので、[F5]は消去することなく残したいところでしょう。
しかし、前者は[Ctrl]+[R]で、後者は[Ctrl]を押しながらブラウザの再読み込みボタンのクリックで実行できます。
OSやソフトウェアはマウスを前提に開発されています。マウスという優れた装置があるのですから、必須のキーと便利なキーを峻別したうえで、批判の対象とすべきです。
[F5]は必須のキーではなく便利なキーです。消去して構わないキーです。
ここで例示した[F5]のように、ファンクションキーは基本的に必須のキーではなく便利なキーです。ただ、ファンクションキーはアプリケーションごとに、機能の割り当てが異なりますので、便利というより多機能です。
便利を求めると多機能に至ります。
多機能はかならずしも便利とは限りません。
学習が求められるからです。
∴ 便利は不便のもと
ファンクションキーは基本的に必須のキーではないので、消去の対象になりますが、なかには「とても便利」なキーもあって、それらのキーまで消去することはありません。具体的には[F2]と[F3]です。「列島キーボードの謎」で示しておきました。
ファンクションキー列は指が届きにくい最上段にあって、キーボード本体の奥行きを大きくしています。[F2]と[F3]は移転し、あとの残りは消去してキーボード本体の奥行きを最小化します。
米国のオフィス事情をこの目で見たわけではありませんが、
デスクは広いな大きいな
でしょう。キーボードの手前にA4判用紙を広げられるのではないでしょうか。
ファンクションキー列を消去した、簡素で奥行きの短いキーボードであれば、我が国においてもキーボードの手前にA4判用紙を広げられます。悲願がかなえられるわけです。些細なことと思われようと、日々の実務において「神は細部に宿る」は真実です。
ただ、ファンクションキーに慣れ親しんだユーザーもいるでしょう。テンキーレスのユーザーが外付けのテンキーを求めるように、同じく外付けのエフキーを準備しておけばよいでしょう。
キーボードの設置はやや右寄りに
キーボードは一般に右寄りに設置します。qwerty配列部が中央に来るようにするためです。列島キーボード図案では[Space]をまんなかに。
テンキーレスは横幅約37cmで、一般的な机の横幅120cmの3割を占有します。フルキーボードの横幅は約45cmで、机の横幅の4割近くを占有します。実寸の差は8cmであっても、フルキーボードは、実使用においては右寄り設置と相まって机の右側を窮屈にします。
また、一般のキーボードの奥行きは約15cmですが、ファンクションキー列を消去すると奥行きは約11cmになります。このわずかな差がキーボード手前にA4判用紙を縦に置けるかどうかの分かれ目になります。
四国エリアを引き算と足し算で一新
キーボードの一番手前は、キーが追加されてきた唯一のエリアです。その来歴には、OSの変遷やノートPCの普及があります。
追加されたキーはショートカット関連であって、あれば便利なのかもしれませんが、優れた入力装置であるマウスを使えば、なくても構わないキーです。キーボード一番手前の一等地を、あえて混雑・複雑にすることはありません。
この批判の精神から、必要にして十分なキー配列こそ目指すべきであり、次のキーは廃止が妥当です。
【引き算】[Windows][アプリケーション][Fn]
また、「入力モードは思考停止の代物」で述べたように、「入力モード」を完全廃止し、[IME]を新設すれば、次のキーは必要がありません。廃止します。
【引き算】[無変換][カタカナ/ひらがな] と、盤面左上の[半角/全角]
さらに、左右両側にある[Alt]はどちらか一方で必要十分です。右側の[Alt]を廃止します。
【引き算】右の[Alt]
こうして、キーボードの一番手前にのこるキーは、
【引き算の答え】左の[Ctrl]右の[Ctrl]左の[Alt][Space][変換]
これらに「意外と重宝する半角スペースキー」で述べた[Half Space]を加え、[IME]を加えます。
【足し算】[Half Space][IME]
こうして得られた次の計7個が、純粋批判の結果・成果であります。
【足し算の答え】左の[Ctrl]右の[Ctrl]左の[Alt][Space][変換]
[Half Space][IME]
これが、四国エリアの一新です。本稿冒頭の図案でご確認ください。
これまでIMEの切り替えは指の届きにくい位置、左上の[半角/全角]でした。[IME]は[変換]の右隣に配置します。
なお、[IME]を押すと[Delete]の上のインジケーター(表示灯)が点灯、消灯して知らせます。色は目にやさしいエメラルドグリーン。点ではなく面で淡く光らせます。IMEの状態が自ずと目に入りますので、画面上の言語バーで確認する面倒から解放されます。
四国エリアは自由のために
四国エリアの一新について、本稿冒頭の図案をよくご覧いただければわかるように、四国エリアは「自由」のためにあります。
新たなキーを付け加えるのではなく、取り除くことで余裕が生まれ、日本語入力に適したキー配列を可能とする自由が得られます。この自由は、四国エリア特有のものです。
キートップの大きさトップ四
日本語入力においては[変換]と[Enter](確定)が頻繁に押されますので、このふたつのキートップの面積を大きくしておくことは、日本語入力を快適にします。
US配列において[Enter]が縦に小さい(一般キーと同等)のは、[Enter]が、日本語では変換の確定に使われるのに対して、英文ではタイプライターの[Return]を起源とする「改行」に使われることから、日本語ほど頻繁に押されないからです。
また、[Space]は冒頭で述べたように、英文において単語と単語を区切るために多用しますので、キーの面積は大きめが良いのですが、US配列のように、一般キーの5~6倍も横長にするまでのことはなくて、せいぜい、その半分、2~3倍もあれば十分です。
つぎに、[Ctrl]は左右両側にあってショートカットキーとしてよく使うキーです。ただ、[Ctrl]を押しながら別のキーを押すには、少し「遠いキー」があります。
米国のグローバルスタンダードであるキーボードは米国人向けにデザインされています。米国人の指は長いというデータがあります。日本人の指の長さに適した[Ctrl]を考え直すときでしょう。
左右の[Ctrl]を内側に移動させる解決案は、指が覚えている位置とずれてくるため、慣れるまでがやっかいです。そこで、内側に広げる(延長する)方法を取ります。広げた分だけ面積がふえて、押す位置が内側に移動しますので「遠いキー」が減ります。
さらに加えて、[Ctrl]の隣に、キー半個分の空地を設けて、押し間違い防止に役立てます。
このように、四つのキー[変換][Enter][Space][Ctrl]は、十分な面積を確保しておくことが、使いやすいキーボードの条件です。
特に[Ctrl]を内側に広げることは、一見、気付きもしない改良ですが、前項で四国エリアを一新したからこそ可能になるものです。その効果は特筆に値するすぐれたものです。
おもな[Ctrl]ショートカットキー
ここで、おもな[Ctrl]ショートカットキーを並べておきます。
[Ctrl]+[X] 切り取り
[Ctrl]+[C] コピー
[Ctrl]+[V] 貼り付け
これら三つはしきりに使いますので、前述の通り、九州エリアにそれぞれ[Cut][Copy][Paste]の各キーを新設しました。
つぎのキーはごく一般的につかうものです。
[Ctrl]+[Z] 元に戻す(No、Undo)
[Ctrl]+[Y] やり直し・繰り返し(Yes、Redo)
[Ctrl]+[A] すべて選択(All)
[Ctrl]+[S] 保存(Save)
[Ctrl]+[P] 印刷(Print)
[Ctrl]+[F] 検索(Find)
つぎに文字種変換について、MS-IMEの場合と、VJEの場合を並べておきます。
【MS-IMEの場合】
[Ctrl]+[U] ひらがなに変換
[Ctrl]+[I] カタカナに変換
[Ctrl]+[O] 半角に変換
[Ctrl]+[P] 全角英数に変換
【VJEの場合】
[Ctrl]+[J] ひらがなに変換 (Japanese)
[Ctrl]+[K] カタカナに変換 (Katakana)
[Ctrl]+[O] 半角に変換 (One-byte)
[Ctrl]+[L] 全角英数に変換 (Large)
VJEの場合のほうが合理的なキーアサインかと思いますが、これは好みや慣れでしょう。
ここでは、[Ctrl]のショートカットキーを並べてみましたが、ほかのキーの組み合わせによるショートカットキーが百個くらいあります。百個覚えておくのもできない相談ではありませんが、マウスを活用すればすむものばかりです。
あえてショートカットキーを多用する意味は何でしょうか。つまり、PCを使いこなすことの意味は何でしょうか。読みやすい文章を書いたり、データを整理したりすること、つまり、いい仕事をすることこそ大事なはずです。
急ぎ仕事にいい仕事は期待できません。ゆっくりで構わないので丁寧な仕事が求められます。
思うに、ショートカットキーの多用は、ノートPCに発する一種のファッション(fashion)なのかもしれません。
後世の人々への贈り物
点滅するカーソルは1960年代に発明され、同年代にマウスが発明されました。マウスによるカーソルはグラフィックカーソルと呼ばれました。この呼称自体が、新しい時代を予感させるものでした。
それから半世紀以上の時を経た現在、マウスは完成度の高い優れた装置として世界標準になりました。一方、キーボードは基本的にはタイプライターの流れをくむ米国のグローバルスタンダードのままです。本批判で指摘してきた通りです。
なお、批判の立場からではなく、古代の文化の研究まで遡り、日本語圏に普遍的となり得るキーボード(鍵盤)を構想する道もあると思います。興味深く美しい課題です。後世の人々への良き贈り物になることでしょう。
意味を失った前世紀の遺物
キーボード右上の[Scroll Lock]と[Pause]は用いません。前世紀の遺物です。廃止します。
幽霊の様なBack slash
右[Shift]の左隣に[バックスラッシュ]があります。このキーは伝統的経緯から[\]と同一文字コードが割り当てられていますので、特別な操作をしない限り「\」が入力されます。もはや意味のないキーです。廃止します。
なお、アンダーバー[_]は使いますので現状維持とします。
[バックスラッシュ]はプログラミング(階層構造の記述)で使うキーです。本批判においてはキーボードの一般用途を前提としています。あらゆる用途を想定するとなれば、公倍数を求めることになります。それは純粋批判のとる道ではありません。
跡地を無駄にしないキー移転
[バックスラッシュ]キーを廃止した跡地に[F2]を移転します。EXCELでセル内編集に使います。
唯一「空」のキーがある
「Shift」+「0」は null(空)です。なぜか空いているのです。そこでここに[Print Screen]を移転します。スクリーンショットをとるために使います。
シフトの拡張 - シフトロック
ここで「一等地にある無用のキー」で予告しておいた[Shift Lock]について述べます。
[Caps Lock]の跡地に[Shift Lock]を配置します。
[Caps Lock]はアルファベット文字に作用するのに対し[Shift Lock]は文字と記号の両方に作用します。もちろんアルファベット26文字にも作用しますので[Caps Lock]の機能を含むことになります。
さらに特筆すべきは、範囲指定の操作において[Shift]キー押し続ける必要がなくなることです。──[Shift Lock]はまったく新しいキーです。
[Shift Lock]を押すと[Esc]右隣のインジケーター(表示灯)が点灯、消灯して知らせます。色は目にやさしいエメラルドグリーン。点ではなく面で淡く光らせます。
安心のエスケープキー
操作を間違えたときにキー一発で取り消しできる[Esc]は盤面左上の角にあって、たいへん便利です。これまで述べてきたことから明らかなように、最上段は廃止しましたので、それにつれて[Esc]も一段だけ下がりました。その分、指が届きやすくなります。
キー配列の必然性に到達
純粋批判の結果をキー配列図に投射してみると、そこには一定の必然性に到達した美しさがあります。すなわち、これ以上の改編を必要としない配列が得られたということです。冒頭で述べたように、なんら表面的でもなければ恣意的でもないこの配列こそは、無敵のキー配列であります。
ファッション性を持ち込めば表面的になり、作り手の都合やユーザーに迎合すれば恣意的になります。どちらも純粋批判とは異なる道です。純粋批判を通ればこうした必然性のあるキー配列に到達します。
キーのクリック感と音
ここまではキーの配列について述べてきました。ここからは、キーのクリック感と音、キーボードの配色と形状について二三述べて、本稿を閉じることにします。
キーを押したときのクリック感のありなしは、好みの問題です。ただし、クリック感があった方が軽快な感じが伴い、タイプミスが少ないように思われます。
同様に、キーを押したときに「カチッ」という音の反応があると、クリック感と相まってタイプミスがより少ないように感じます。心地良く、かすかな音であれば、爽快感さえ覚えます。ただ、これも好みの問題です。
キーボードの配色
キーの種類に応じて、キートップの色を三色に分けます。
[英数字] 地の色(例えば、アイボリー)
[記号類] 薄い灰色
[操作系] 灰色
このように色分けされたキーボードは、一色の「べた」なキーボードに比べ、地形図のようで、キーの分布が一目で把握でき、やや立体的に見えることもあって、親しみやすい感じがします。親しみやすさは道具一般に大切な要素です。
キーボードの形状
キーボードの形状について三点ほど紹介します。この項目はなかなかイメージが湧きにくいかもしれませんので、このような工夫が施されているという事そのものを、ただお察しいただくだけで結構です。
【シリンドリカル】
一般キーのキートップ中央部はすこし窪んだ形状(シリンドリカル)が、指によく馴染みます。一方、最下段のキー[Ctrl][Space][変換]などはすこし脹れた、かまぼこ状が適します。
【ステップ】
キーボード手前から奥に向かってキーの配列を高くする(ステップ)と、指の動きに適います。階段状の配列です。
【スカルプチャ】
階段状の配列に加えて、キー全体に傾斜をつける(スカルプチャ)と、さらに指の動きに適います。段の傾斜。横からみると扇形。
シリンドリカル・ステップ・スカルプチャ・キーボードは、人間工学(エルゴノミクス)に基づいて開発されたデザインです。
タッチタイピングでなくても、とても快適にタイピングできます。疲れ方が違います。高級品(3万円台前半)では必ず採用されています。
脱皮するキーボード
本「純粋キーボード批判」で述べてきたことは、なんら特別なことでもなければ、難解なことでもありません。キーボードを日々使う、ごくふつうの日常のなかから出てきた事柄を「批判」というかたちで整理してみたに過ぎません。
鉛筆やボールペンよりずっと使用頻度の高いキーボードが、もっと使いやすい道具へと脱皮することをつよく願うものです。
続・純粋キーボード批判
純粋批判によってキーボードの「再・標準化」の道をひらくことができたと思います。
ところで、IMEはPC側のOSに組み込まれていますが、キーボード本体側に組み込むほうが自然だと思います。理由はいくつかありますが、ここでは言及しないでおきます。
なお、IMEはInput Method Editorの略ですが、この呼称にはすこし違和感を覚えます。 別名、INE(Input for Nihongo and English)はどうでしょう。イネと発音します。
2022年盛夏